いなば 田んぼの学校『地域貢献と子供たち』レポート
レポーター 山形県農村環境保全指導員
佐 藤 友 二
私は平成18年から山形県農村環境保全指導員の委嘱を受け、農家のみならず地域住民一体となった活動展開への助言や指導等をとおして多様な活動をしてきましたが、これまで指導員として地域活動と子供たちの関わりについて感じたままを記します。
これまで国と県や市職員の力を借りながら、地域住民とその子供たちと共に地域貢献活動を実施してまいりましたが、行政は仕事だからではありませんし、地域も子供たちも感謝されるために行っているのではありません。いまでは感謝の本当の意味を解せず、無闇に感謝を押し付けることは、その継続性と関係性において危惧されるものです。
それでは感謝される人物とは、いったいどのような人物なのでしょう。タダ働きする人ですか。親であったり、教師、コーチだったりするのでしょうか。たとえば、親は子供に感謝されるために子育てしているのでしょうか。教師も子供たちに感謝されるべく教職に就いているのでしょうか。実際は大人も子供たちの頑張りに感動し刺激され、自らの生きる自信を得ることもありますから、この感謝の心は決して一方通行ではなく相互の関係性があります。
ここ日本の歴史において米沢藩主上杉鷹山は、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディをも魅了した日本の偉人として有名ですが、この鷹山は、師である細井平洲との出会いと人間味富な表現力とその分かり易い口調とともにその思想に感銘を受け、その思想や教えを学問というものに留めることなく、誠実に生涯をとおして実践したことによって、その名を歴史に残すに値する人物となったのです。
ここで、鷹山が米沢藩を受け継ぐにあたり、幼く十五歳でその教えの基に揺るがぬ信念と覚悟を誓文として奉納しているので次に記述する。
一、民ノ父母ノ語、家督ノ砌 歌ニモ詠ミ候ヘバ、此ノ事第一ニ思惟 仕ルベキ事
《受け継ぎて 国のつかさの身となれば 忘れまじきは民の父母》
父母はその子らから、見返りを求めない。 自らの犠牲を惜しまない無償の愛にこそ、その子らも親の厳しさにも耐えるのである。思いやりの心、譲り合いの心、先施の心、お互いさまの心を育むことでこの美しい国づくりが成し遂げられてきたことは、この国民文化に基づいた事実であり、これから時代がどう変わろうともこの国が成すべきことはここにあるのです。細井平州の言葉は「思いやりの心」として、今尚日本人の根底にある心を養ったものでした。
感謝は、相手への敬意、お互いの信頼と愛情によって育まれた思いやりの心の醸成無くして成立しない言葉なのです。
「相手への敬意と感謝、自分以外は全て相手であることを感じながら生きていかないといけません」
「先施の心」「返報性の心」これら心の行き来が思いやりや絆へと発展し、この美しい日本を支えてきましたが、これから先のグローバル化が進む社会において、人と人との心の貿易であって、これらが目指す世界基準は共存共栄なのです。
いま世界は、持続可能な開発目標(SDGs)を示しながら、すでに様々な課題解決に取り組み始めました。環境と経済は複雑に絡み合っており、食糧事情と命を同軸に考えられない自国優先の協議には、これから先もこの世界の未来を託せないのです。
「他国への敬意と感謝」目先にとらわれない心の教養を身に纏った人間こそが、このグローバルのテーブルに着く権利があります。昔から日本には「損して得取れ」「損をすれば得をする」 「損せぬ人に儲けなし」「損は儲けの始め」「損と傷は 癒え合う」などのことわざがありますが、社会はすべて損と得だけで成り立っているわけではありません。どちらが先でも良いでしょう、先施の心から始まるその先は単なる施しや損得ではなく、共存のための絆づくりのきっかけとなっていくのです。
社会貢献活動もSDGsも根底にあるものはこの地球の存続、地球愛です。地域活動ボランティアを単なる労働奉仕と考えてはいけません。これまで行ってきた様々な活動には、これまで地元庄内から数多くの子供たち(小中高校生)に参加いただきました。田んぼの学校、生きもの調査、水辺環境整備など、そのそれぞれの活動が地域の食や文化も含めより深く地域を知ることでもあり、また、そのことによってこの生まれ育った地域への愛着を育むことに繋がってきたのです。愛着心無くして、地球を愛せるはずがないのです。
さて、今年もコロナ感染対策を施しながら、去る令和3年7月31日(土)ここ米どころ藤島の清流と親水空間を守るべく、地元の庄内農業高生、鶴岡北高生、酒田西高生、酒田光稜高生ほか、藤島中学生も含めて総勢60名によって水辺空間の清掃活動が実施されました。ここは毎年大規模に魚のつかみ取りを実施しているところでもあり、この地域ではここが唯一若い夫婦の家族からお年寄りまで安全に水遊びができるところとして、真夏の思い出づくりに提供されてきたものです。毎年感心することではありますが、特に最近の地域活動に参加する子供達の地域社会に貢献しようとする姿勢には、これから先に待ち構える国際社会で生きていくための素養や姿勢を感じ取れるものとなりました。近い将来、この子供達はグローバルのテーブルに着く権利を手にし、より良い社会を築いてくれることでしょう。
活動を終え、素直に何より嬉しいと感じることは、「きょうは楽しかったよ」「こんなところがあるなんて知らなかった」「大人になってもまた来たい」「次回、ふじしまイルミネーション設置にも参加します」など、しっかりとこの地域への愛着の心が育まれること、その証を得られたことこそが、何れ自分や地域に返ってくるもの、感謝の正体だと感じています。
活動のヒント
現在、水土里ネットが扱う農業用水は、農家、非農家にかかわらず恩恵をもたらしており、現在、地域の生活と密着した水土里ネットの重要性が評価されたことで、水土里ネットがその地域にあたってどのように関わり、そして今後どのようにして地域に貢献できるかなど、次の世代に向けた新たな役割についても期待されております。
従来から、水土里ネットが通常の管理で実施してきたものには、住宅地での洪水防止のための水門操作や、火災を最小限にくい止めるための配水操作などがありますが、将来的にもこれらの機能を維持するためには、地域とのパートナーシップによって共存を図る必要性があると考え、今まで水土里ネットが果たしてきた役割と先人の労苦や知恵によって守られてきた多くの資源を幅広く住民に知ってもらいながら、これからの水土里ネットが時速可能な社会の構築に向けて地域の一翼を担い、地域づくりに欠かすことの出来ない組織となるために、地域住民や地元小学生を巻き込んだ様々な活動を積極的に展開しております。
いなばこども未来クリエーター
農村の環境も都市部の生活とは密接な関係を持っています。こども未来クリエーターとは、次の世代により良い環境を引き継ぐために、導入口としてまた、きっかけとして様々な体験活動に積極的に参加し、そこから自らが環境に興味を持ってまた、地域づくりの核となり、またそれをサポートできる人材を育成するために創設した資格制度です。
Aコース【農村農業体験コース】
- 田植え体験
- 田んぼの除草体験
- 田んぼの水源地・林業体験
- 稲刈り体験
- 農村食文化体験(収穫祭)
Bコース【農村環境活動コース】
- 農村環境づくりの活動(各集会・ワークショップ等)
- 農村環境における調査活動(歴史・農地・水等)
- 農村環境の生きもの調査活動
- 農村環境の生きもの救出活動
- 農村環境の清掃活動
Cコース【農村体験企画コース】
- 「いなばこども未来クリエーター(中級)」を取得し、「いなばの学校」企画運営スタッフとして2年間活動した者。
地域活動と水土里ネットいなば
この活動は土地改良区初の試みとして、地域住民に調整池を親水の場として直接農業用施設の活用をしてもらうことによって、地域が将来望むべき「地域の資産」としての価値を認識してもらう絶好の機会として位置づけ、地域用水の多面的機能の増進を図ると同時に、土地改良区への理解と地域の安全意識の定着を図ることを目的に実施。